

彼の死が、「労働と健康の関係」の解明を、するどく私に突きつけた。
激しく変わる雇用・賃金・労働時間などが、労働者にストレスを蓄積させ、不安を増幅させていることは疑いない。
いま労働者のうつ病などメンタルヘルス障害が、大きな社会問題となっている。
自殺者も警察庁によれば、昨年(2002年)21万2043人に上り、5年連続で3万人を超えている。
その原因・動機は、「健康問題」、「経済・生活問題」、「家庭問題」、「勤務問題」の順だという。
だが、うつ病など精神障害・「健康問題」の内奥には少なからず「経済・生活問題」や「勤務問題」が隠されているに違いない。
だから実質的には、「経済・生活問題」や「勤務問題」がより大きな比重を占めるのではないか。
これまで私は、過労死、過労自殺、メンタルヘルス障害等をもたらす要因として、つぎの3要因を指摘してきた。
第一に、長時間で深夜に及ぶような変則的な過密労働、第2に、成果主義人事管理などストレスを蓄積させるような職場環境、第3に、家庭を中心とした心身のリフレッシュ、リプロダクトの場の変容・崩壊である。
これらの要因の複合が過労死・健康破壊をもたらすこれが私の主張であった。
いまも主張を変えようとは思わない。
むしろ友人の死で自説にますます確信を深めてさえいる彼の場合おそらく、第一要因と、たぶん第3要因が大きく作用したのだろう。
第2要因については、新聞労連加盟の労働組合もあることだし、これまで得た情報のかぎりでは、(個別にはともかく)全体として格別問題にすべきところはないようだ。
もっともこの問題を考えるにあたっても、必然性は偶然性(特殊事情)を媒介に貫徹・発現することを決して忘れてはならない。
自説に確信を深めながらも、一点「間接要因」を補足したい。
かりにある企業の労働時間や職場環境に特段の問題がなくても、国、社会規模で失業や不安定雇用が増加し、成果主義化などで競争的な労働環境が広がれば、その企業の労働者も間接的に影響をうけるだろう。
なぜなら、その企業の労働者たちがこんなご時世に解一展されたら大変だと不安になり、サービス残業など無理難題にも応じたりするようになるからである。
同時にその企業の経営者が、他社・周囲との競争関係上、雇用・賃金慣行等を「世間並み」に劣化させることにもなろう。
こうした「間接要因」が作用して精神障害・過労死等をもたらすのだろう。
このことを先般、あるシンポジウムで指摘したら、シンポジストの一人のなぜこうも嘆かわしい事態が広がったのか。
明らかにすべきは、その主因であろう。
本書は、主因が財界のための「構造改革」(「新自由主義的改革」)にあると考える。
財界は「経済のグローバル化」のもとで、日本企業の「国際競争力強化」が死活問題だと喧伝し、さまざまな「構造改革」を提起。
労働現場にも詳しい坂本修弁護士から、そうしたケースがいま広がっていると教えられた。
友人のケースはこれに属するのだろうか。
そうだとすれば、そして現象面の奥を丹念に探れば、過労自殺の疑いが強まるかもしれない。
注目したいのは、労働省(現・厚生労働省)が1999年9月の通達(「精神障害に係る自殺の取り扱い」)で、「精神障害を有するものが自殺した場合、業務上の精神障害で正常の認識、行為選択能力が著しく阻害され、自殺行為を思いとどまる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態での自殺は、結果の発生を意図した故意には該当しないので労災補償の対象にする」としている点である。
いずれにせよ、90年代の後半から、とくにここ4、5年、この国の一雇用・賃金慣行が急激に変わり、失業・半失業が急増するだけでなく、サービス残業の増大や賃下げ・成果主義の広がりなど、労働者をめぐる条件が一段と厳しくなっている。
各種の社会保障もあいついで削られ、「現在の苦しみ」にくわえて「将来の不安」も大きくのしかかってきている。
こうした深刻で諺屈した状況下で、「国民総イライラ社会」となり、うつ病・自殺・過労死など「負の社会現象」が記録的な広がりをみせてる。
これを受けて、橋本内閣とりわけ小泉内閣になって、「構造改革」が国策の中心に位置づけられている。
その企業版がリストラ旋風にほかならない。
リストラは当初「事業の再構築」であったはずだが、その中心が「人減らし」であることが世に知れわたり、90年代初頭から「リストラ解雇」という用語法が定着してしまっている。
本書は、「国際競争力」論をテコに「構造改革」・リストラを正当化する財界新戦略の誤り・危険性をあぶりだす。
たんに財界新戦略を批判するにとどまらず、雇用・労働条件の改善、そのための労働法制の拡充等をおこなうことが、不況対策にもなるし、結果として「国際競争力強化」にもつながると、小著は提言する。
また、民主的規制による「福祉重視社会」を実現させうる条件が、深刻な現実のもとで醸成されていることを示す。
ここ数年、とくにひどい。
迷惑を注意され、すぐ殴る。
一眉が触れたと、いきなり殺す。
少女を食い物にする。
少女の一部はカネ欲しきから、それに乗る。
ささいなことで肉親まで殺害する。
凶悪犯が若年化し、大人も含めて激増している。
ほかにも登校拒否。
ひきこもり。
失腺・生み逃げ・無業者・野宿生活者・自己破産・精神障害・自殺者の増大など、どれも記録的だ。
こうした「負の社会現象」をあげれば、枚挙にいとまがない。
いったい、この国はどうなっているのか。
なぜこんなひどいことになったのか。
放置すれば、まだまだエスカレートするだろう。
このままでは日本に未来はない。
気になる国際比較にも出会う。
一つだけ拾う。
日米中3ヵ国の高校生の国際比較だ(日本青少年研究所、2002年調査)。
「自分は駄目な人間と思うことがある」という高校生の割合は、米国48%、中国37%に対して、日本73%と抜きん出て高い。
「あまり誇りに思えるようなことはない」でも、米国24%、中国23%に対して、日本52%とこれも突出して多い。
「計画をやり遂げる自信がある」という積極的な面ではどうか。
米国86%、中国74%に対して、日本38%と格段に低い。
あまりにも対照的である。
日本の高校生の多くが自信を喪失し、夢を失っている状況が、この調査からも明白ではないか。
青少年の心情・状態は、その国の未来をあらわすバロメーターだ。
このままでは暗黒の、地獄の、人の住めない日本になる。
この国は朽ち果て、滅びる。
どうすればよいのか。
答えは、「なぜこうなったか」という原因の解明抜きには出せまい。
なによりも根本・土台のところで異変・地殻変動が起きている、こう考えざるをえない。
社会の根本・土台とはどこか、だれか。
国民の圧倒的多数を占める労働者賃金生活者だ。
労働者抜きで社会は一日たりとも成り立たぬ。
かれらが国の富をつくり、経済・社会を支えている。
いまその人たちの労働・生活・権利が「大きな力」で抑圧され、ねじ曲げられている。
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